「THE FIRST TAKE 長渕剛 – とんぼ」 冒頭6分間に渡る語り全文

僕は田舎から東京出てきたクチだったから。馬鹿にされんのが一番嫌でさ(笑)、だから馬鹿は馬鹿なりに、馬鹿にされないように、そうやって歌を書いてきた。
詩を書く時はやっぱり苦しみを伴う。だって、耐えられないほどの苦しみや怒りや絶望や、もう立ち上がれないとそう思った時に、俺の傍らにはギターがあったわけだから。ギターと一心同体で生きてる。
だから、みんながカラオケで僕の歌を歌ってくれてるのは嬉しいけど、その歌の裏側にはさ、苦しみがいっぱい詰まってるわけよ。
だって、生きるために歌を歌ってきたから。

ふぅ〜…

僕の歌はねぇ、強い男の歌じゃないんですよ。まぎれもなく弱虫の歌です。
俺はダメだ。俺は生きて行けない。もうダメだ。
それをよっこいしょっと、泣きながら書いたような弱虫の歌。
その弱虫の歌たちを引っさげて、45年間狭い日本を60ヶ所とか、多い時は新人の頃はね120ヶ所くらい歌ってきた。
そのうち、その弱虫の歌たちをみんなが聴いて、一緒に叫んでくれるようになった。
しまいには、日本の国旗まで振ってくれるようになった。

あとはそうやって活動してたら、歌が国境を超えた。韓国や、ベトナムや、マレーシアや、インドネシアや。
僕の歌がそういう風に他国で歌われるようになってなんか不思議な気持ちがしたな。俺が歌ってんだけど(笑)。まぁいいか、そんな感じもしたし。
だけどそれぞれが自分の歌として僕が世に放った歌が、みんなの心の中に自分の歌として、燦々(さんさん)とそこにあるんだったら、こんな幸せなことねぇな。あぁ〜苦しんで良かった、そういう風に思ったりもする。
だってあの頃SNSなんて無いからね。アジアプロモーションやったわけでもないからさ。だから歌ってのはチカラあんだな。

どんな時代も、歌は強烈なチカラを持ってます。僕はこれからは、悲しみに打ちひしがれてもう絶望の淵に立って生きていけないっていうお前に歌を歌う。
友達に裏切られて、奥歯を噛み締めながら、悩み疲れてるあなたに歌う。
愛憎劇の中で人を憎しみ、コロしたいと思うようなあなたに、優しい歌を歌ってあげたい。
本気でそう思ってます。
これからもまだまだ歌を書きます。

ｼﾞｬﾝｼﾞｬﾝｼﾞｬｼﾞｬｼﾞｬﾝ(ギターを弾き始める)